毎朝、鶏舎のカーテンを開ける瞬間が、楽しみだ。
カーテンの向こうに、卵がいくつ並んでいるか。中には、まだほんのり温かいものもある。
鶏が選ぶ、産卵の場所
鶏は、自分が気に入った場所で卵を産む。
薄暗くて、周囲からの視線が気にならない、藤を編んだような奥まった場所。さらに言えば、卵を温めやすいように、藁が敷いてあったり、もみ殻が敷いてあったり、ふかふかした床面の場所。そういう所を、好んで選ぶ。
こちらで用意した産卵箱が、その条件に合っていれば、そこに産んでくれる。けれど、何かのきっかけで産卵箱を選ばなくなり、別の場所に産むようになることもある。
鶏たちには、鶏たちの「ここがいい」がある。
採卵という日課
毎朝、卵を集める。
カーテンを開けて中を覗くと、ゴロゴロと卵が並んでいる。
「今日は、なんとか8個も取れたな」
「今日は10個になったな」
「今日は4個か……」
数えるのが、ひとつの楽しみでもある。餌やりや水やりとあわせて、卵の回収が日課になっている。
卵がない日のこと
時には、悲しい出来事もある。
卵が、ひとつもない日。
特に冬場、気温が下がる季節。鶏たちにとっても、その気候は過酷なのだろう。1週間で1個ぐらいしか採れず、自家消費の卵さえどこかで買わないといけない時期も、ある。
「うちの鶏たちはもともと年寄りが多いから、そろそろ限界なのかな」
そんな想像をすることもある。
けれど、春になり、暖かくなると、また勢いを取り戻して卵を産み始めてくれる。鶏にとっても、季節の恵みに合わせた、産卵のリズムがある。
これは、鶏のいる暮らしで、発見したことのひとつだ。
蛇のこと
最も悲しい出来事は、産まれた卵が、割られていることだ。
卵の中身が食べられ、殻はぐちゃぐちゃにされ、誰かに食べられた跡が残っている。
我が家で、鶏が産んでくれた卵を食べに来る生き物のひとつは、蛇だ。
自宅の周辺には里山が広がっており、青大将といった蛇が、頻繁に家に来ることもある。鶏舎の周辺の環境を整える努力はしているが、それでも侵入されることがある。
採卵しようと、産卵箱を覗いた瞬間、藁の中に、武器のように光る蛇の目。
ゾッとして、飛びのく。
基本的には、青大将が入ってくることが多い。マムシなどの毒蛇だったらと思うと、想像するだけでも怖くなる。
蛇については、見かけた時に捕獲して、なるべく遠くに離して放すようにしている。
(余談だが、母屋にネズミが出た時には、この蛇に助けられたこともある。詳細は別記事でいずれ書きたい。)
鶏が、卵を食べる
そして、もうひとつの「卵を食べに来る生き物」が、鶏自身だ。
鶏もまた、自分たちの産んだ卵を食べる、生き物のひとつだった。
原因としては、ストレスや、餌の不足など、様々な理由が挙げられる。食卵を始めた鶏は、それを習慣化し、何度も卵を突いて食べるようになる。
我が家で、卵が食い荒らされる被害として、最も多いのが、実は鶏自身だった。
特に、ビニールハウスの鶏舎を建てる前の、チキントラクターの時期。
この被害は、頻繁にあった。
どれだけ追い払っても、止まらない。
試した対策
何とかしようと、いくつかの対策を試した。
プラスチックのダミー卵を並べておく。鶏が突いても割れないので、無駄な努力だと学ばせる作戦。
殻に穴を開けて中身を出した綺麗な状態の卵に、練りからしを詰める。食卵をした瞬間に、ピリッとする辛さで「もう食べたくない」と思わせる、からし卵作戦。
「ひと泡吹かせてやる」というような気持ちで、いろいろ試した。
しかし、結局、被害が完全になくなることは、なかった。
対決ではなく、環境を整える

そうして試行錯誤を続けるうちに、はっきりと見えてきたことがある。
最も効果的なのは、鶏にとってのストレスを減らすことだった。
広い鶏舎にする。広い運動場を用意する。
食べ残しが出るほど、たっぷりの餌をあげる。
鶏に突かれる前に、頻繁に採卵に行く。
それから、我が家の鶏舎の産卵箱は、斜めにしてある。
鶏が卵を産むと、自動的に転がっていく。
転がった卵は、鶏が突けないぐらい奥の、卵が溜まるポケットへ落ちていく。
鶏が食べられる場所に、卵を残さない——そういう設計で、産卵箱を封印するのも、対策のひとつだった。
ダミー卵やからし卵で、鶏に「ひと泡吹かせる」より。
鶏にとってのストレスを減らし、卵が物理的に食べられないように産卵箱を工夫する。
対決姿勢ではなく、環境改善。
そっちの方が、自分にとっても、ずっと気持ちがいい。
そして、わたしたちの卵は、無事に食卓に並んだり、人の手に渡ったりしていく。
耕太
連載「鶏のいるくらし」第8話へつづく

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